育成就労制度で企業に求められる「育てる力」~採用から育成への発想転換~

育成就労制度に対応するために企業が整えたい育成・定着のポイント

連載|多様な人が活躍できる社会を考える―育成就労制度から見えてくる未来― 第3回

第1回では育成就労制度の全体像を、第2回では技能実習制度が見直されるに至った背景を整理してきました。理念と現場の乖離、転籍できない仕組み、失踪問題――こうした課題を乗り越えるために、新制度は「人材育成」を制度の目的そのものに据えています。

 

では、企業は具体的に何を変えていけばよいのでしょうか。企業には今後、外国人材を「労働者」としてだけでなく、「共に成長するパートナー」として育てる力が求められます。

 

今回は、育成就労制度への対応を見据え、企業が取り組みたい教育体制づくりや定着支援、やさしい日本語によるコミュニケーションなど、実務のポイントを交えながら解説します。

 

 

 

1|育成就労制度の特徴――「育てる」ことが制度の目的に

採用ではなく、育成が制度の出発点

これまでの技能実習制度は、「技能を学んだ人材が母国へ技術を持ち帰る」という国際貢献の理念のもとに設計されていました。一方で現場の実態としては、「人手不足を補う労働力の確保」という側面が強く出てしまっていたことは、前回お伝えした通りです。

育成就労制度では、この構造そのものが見直されます。制度の目的として明確に「人材育成」が位置づけられ、未経験の状態で来日した外国人材を、特定技能1号水準の人材へと計画的に育てていくことが前提となります。

つまり企業にとっては、「採用する」という発想から、「一人前になるまで育てる」という発想への転換が求められると考えられます。

 

「育成計画」が受け入れの起点になる

育成就労制度では、受け入れ企業があらかじめ「育成計画」を作成し、認定を受けたうえで外国人材を迎え入れる仕組みが取られています。原則3年間の育成期間のなかで、日本語教育と技能教育を並行して進め、段階的に特定技能1号への移行を目指す設計です。

この「育成計画」をどれだけ実効性のあるものにできるかが、受け入れ後の定着や本人の成長を大きく左右します。書類上の計画で終わらせず、現場で実際に機能する育成の仕組みに落とし込めるかどうかが、企業に問われる最初のポイントになります。

 

2|教育体制づくり――OJT・マニュアル・評価の仕組み


OJT|「見て覚える」から「教えて伸ばす」へ

これまで多くの現場では、指導担当者の経験や勘に頼った、いわゆる「見て覚える」スタイルのOJTが行われてきました。しかし、言葉も文化も異なる外国人材を育てるうえでは、この方法だけでは限界があります。

何を、どの順番で、どのレベルまで教えるのかをあらかじめ設計しておくことが、育成就労制度における教育体制の土台になります。作業手順だけでなく、安全教育や職場のルールについても、段階を踏んで丁寧に伝えていく姿勢が求められます。

 

マニュアル|「わかる」を支える仕組みづくり

口頭での指導だけに頼らず、写真や図を用いたマニュアル、多言語対応やふりがな付きの資料を整えておくことも重要です。マニュアルがあることで、指導担当者が変わっても教育の質が安定しますし、本人が困ったときに自分で確認できる「頼れる情報源」にもなります。

「伝えたつもり」で終わらせない仕組みとして、マニュアルの整備は欠かせない投資といえるでしょう。

 

評価|成長を可視化し、次の目標につなげる

育成の効果を高めるには、定期的な評価とフィードバックの仕組みも必要です。技能の習熟度や日本語力を定期的に確認し、本人にわかりやすく伝えることで、「自分はどこまで成長したのか」「次に何を身につければよいのか」が見えてきます。

評価は、企業が本人を管理するための道具ではありません。本人の成長を後押しし、キャリアの見通しを一緒に描くための対話の機会として位置づけることが、育成就労制度が目指す方向性とも合致します。

 

3|定着支援の重要性――相談体制とメンター制度


育成就労制度では、一定の要件のもとで本人の意向による転籍が認められる方向となっています。これは、企業にとって「採用したら終わり」ではなく、「選ばれ続ける職場であり続けられるか」が常に問われるということを意味します。

賃金や労働条件はもちろん大切ですが、それだけでは定着にはつながりません。日々の小さな不安や孤立感を放置しないことが、長く働き続けてもらうための鍵になります。

 

相談体制|声を上げやすい環境をつくる

言葉の壁や文化の違いから、困っていても声を上げられずに抱え込んでしまうケースは少なくありません。相談窓口の設置や定期的な面談を通じて、「困ったときに頼れる場所がある」という安心感を伝えることが重要です。

窓口があるだけでなく、実際に使われる窓口にすることがポイントです。誰が対応するのか、どんな内容でも相談してよいのか、母語や「やさしい日本語」でも対応できるのか――こうした運用面の工夫が、相談のしやすさを左右します。

 

メンター制度|「一緒に働く先輩」がいる安心感

最近では、業務指導担当とは別に、メンター制度を導入している企業もあります。メンターは仕事を教える役割ではなく、悩みを聞き、不安を受け止め、孤立を防ぐことを目的としています。

こうした仕組みは、外国人材だけに必要なものではありません。新入社員や若手社員の定着支援でも効果が期待されており、誰もが安心して働ける職場づくりにつながる取り組みでもあります。

 

4|やさしい日本語とコミュニケーション


誤解を減らす「やさしい日本語」という視点

指示がうまく伝わらない、安全確認が徹底できない、人間関係がぎくしゃくする――現場で起きるトラブルの多くは、言葉の行き違いから生まれています。ここで有効なのが「やさしい日本語」という考え方です。

 

やさしい日本語とは、難しい言葉を簡単な表現に言い換えたり、一文を短く区切ったりすることで、日本語を母語としない人にも伝わりやすくする話し方・書き方の工夫です。出入国在留管理庁では、在留外国人とのコミュニケーションを支えるためのガイドラインを公開しており、書き言葉・話し言葉それぞれのポイントが整理されています。

 

現場で意識したいのは、たとえば次のような工夫です。

 

  • ・ 一文を短くし、主語と述語をはっきりさせる
  • ・「〜していただけますでしょうか」のような遠回しな表現より、はっきりとした言い方にする
  • ・ 漢字にふりがなを振る、専門用語や略語を避ける
  • ・「後で」「なるべく早く」など曖昧な表現を避け、具体的な時間や数量で伝える

 

こうした工夫は、決して外国人材だけのためのものではありません。指示が明確になることで、日本人スタッフを含めた現場全体の伝達ミスも減らせる、という副次的な効果も期待できます。外国人材が入社したとき、多くの企業がまず日本語能力を気にします。しかし本当に重要なのは、日本語能力そのものではなく、「相手に伝わるコミュニケーション」ができているかどうかです。その手段として注目されているのが「やさしい日本語」です。

 

心理的安全性――「聞いてもいい」と思える職場へ

言葉の壁がある環境では、「わからないと言えない」「聞き返すと迷惑がられるのではないか」という不安が、本人の中に生まれやすくなります。この不安を放置すると、確認不足による事故やミス、そして孤立感の蓄積につながりかねません。

 

大切なのは、「わからないことを聞いても大丈夫」と思える空気を、現場全体でつくっていくことです。指導担当者やメンターが、質問を歓迎する姿勢を日々の言葉や態度で示していくこと。これは特別な制度や仕組みというより、日常のコミュニケーションの積み重ねによって育まれるものです。

 

やさしい日本語の活用と心理的安全性の確保は、別々の取り組みではありません。「伝わる言葉」と「聞きやすい空気」は、両輪として現場に根づかせていくものだといえるでしょう。

 

おわりに

育成就労制度が求めているのは、制度への形式的な対応ではありません。「採用して終わり」ではなく「育てて、支えて、共に働き続ける」という発想への転換です。

教育体制を整え、定着を支え、伝わる言葉で向き合う。こうした取り組みの一つひとつは、決して外国人材だけのためのものではなく、すべての社員が安心して力を発揮できる職場づくりにもつながっていきます。

「育てる力」を持つ企業には、国籍を問わず、優秀な人材が集まり、長く根づいていくはずです。育成就労制度への対応を、そんな組織づくりの契機として捉えてみてはいかがでしょうか。

次回は、外国人材の定着を支える地域とのつながりに焦点を当て、「共生社会」の視点から考えていきます。

 

参考資料・参考文献

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