なぜ技能実習制度は見直されたのか~育成就労制度創設の背景にある課題とは~

問われていたのは制度だけではなかった|見直しの背景にあった課題を考えます

連載|多様な人が活躍できる社会を考える―育成就労制度から見えてくる未来― 第2回

前回の記事では、日本社会が迎えている大きな転換期と、外国人材受け入れの重要性について触れました。長年運用されてきた「技能実習制度」が廃止され、2027年4月までに新たな「育成就労制度」が創設されることが決定しています。なぜ今、これほどまでに大きな制度改正が必要だったのでしょうか。今回は、その背景にある課題を整理します。

 

 

1|技能実習制度は「国際貢献」のために始まった

国際貢献という出発点

技能実習制度は、1993年に「国際貢献」を目的として創設されました。先進国である日本が、開発途上国等へ技能・技術・知識を移転し、それらの国の経済発展を担う「人づくり」に貢献することが、制度本来の理念です。

 

技術移転という設計思想

制度の根幹には「学んだ技術を母国へ持ち帰る」という考え方がありました。外国人材が日本の現場で技能を習得し、帰国後に自国の産業を支える——それが当初描いていた姿です。

 

技能実習制度は「労働力の確保」ではなく、「国際貢献」と「技術移転」という理念のもとに設計された制度でした。ただ、長年の運用を経るなかで、この理念と現場の実態との間にギャップが生じ、それが制度見直しの議論へとつながっていきました。

 

2|理念と現場の間にギャップが生まれた

 

長年の運用を通じて、制度の「建前」と「実態」の乖離が問題として浮かび上がってきました。本来「技能を学ぶ場」として設計されていた制度が、現場では「人手不足を補う手段」として機能する場面が多く見られるようになっていったのです。

 

人権・ハラスメントへの懸念

言語や制度理解の壁から、問題が起きても相談や申告が難しい状況に置かれるケースが指摘されました。ハラスメントや不適切な労務管理が問題となる現場もありました。

 

労働条件をめぐるトラブル

最低賃金法違反や長時間労働といった労働関係法令違反が一部の現場で確認され、社会的な問題として取り上げられるようになりました。

 

転籍が認められない仕組み

本人の希望による職場変更が原則として認められていなかったため、労働環境や待遇に不満があっても、別の職場へ移ることが難しい状況にありました。

 

孤立しやすい生活環境

言語の壁や地域社会とのつながりの薄さが、生活面での不安や孤立感につながりやすく、精神的な負担や定着率の低下を招く一因となっていました。

 

こうした課題が積み重なるなかで、「制度の構造そのものを見直す必要がある」という認識が広がっていきました。

 

3|失踪の背景には制度や環境の課題があった

 

技能実習生の失踪は、制度運用上の課題を示す象徴的な問題として、広く注目されるようになりました。なぜ、そのような状況が生まれたのでしょうか。

 

職場を変える選択肢がなかった

本人の希望による転籍が認められていなかったことで、労働環境や待遇に問題があっても、制度の枠内では解決の手段が限られていました。結果として、制度の外に出ることを選ばざるを得ないケースも生じました。

 

来日前後のミスマッチ

来日前に抱いていた期待と、実際の仕事内容や生活環境とのギャップが、失踪のきっかけになるケースもありました。送り出し機関による情報提供の質にばらつきがあったことも、背景の一つとして指摘されています。

 

相談できる環境の不足

言語の壁や地域での孤立により、困ったときに頼れる人や場所が身近にない状況が続きました。問題を抱えたまま追い詰められていくなかで、失踪という選択につながるケースもありました。

 

4|世界から制度改善を求める声が高まった

技能実習制度の運用をめぐっては、国際的な人権団体や海外メディアからも批判的な見方が示されてきました。米国国務省の「人身取引報告書」などでも制度上の課題が言及され、日本政府に対して改善を求める声が上がっていました。

 

「選ばれる国」であるために

アジア各国の経済成長が続くなか、外国人材にとって「日本で働く」ことは、以前ほど自明の選択ではなくなっています。賃金水準や生活環境、制度の透明性——こうした要素が、日本が「働きたい国」として選ばれるかどうかを左右するようになっています。国際的な人権基準に沿った制度の整備は、外国人材との信頼関係を築くうえで欠かせない条件となっています。

 

おわりに

技能実習制度の見直しは、名称の変更や表面的なルール改正にとどまるものではありません。

問われていたのは制度の仕組みだけでなく、「人を受け入れる側の姿勢」そのものでした。外国人材を「一時的な労働力」としてではなく、「共に働き、共に成長するパートナー」として迎え入れること——新制度への移行には、そうした意識の転換が求められています。

 

次回は、新たに始まる「育成就労制度」が具体的にどのような仕組みを持ち、何を変えようとしているのかを詳しく見ていきます。

 

参考資料・参考文

 

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