読み手の「ニーズ(欲求)」を考える【広報・PRのための、シンプルな本と企画のつくり方】第4回
2020-08-27
読み手が求めること(ニーズ)に応えられる本なのかを明確にする
広報・PRのための、シンプルな本と企画のつくり方
この連載では、good.book(グーテンブック)という出版サービスでこれまで100冊ほどの書籍企画・編集・発行を手掛けてきた著者が、お手伝いさせていただいた企画やプロジェクトの経験から「シンプルな本づくりのポイント」を解説します。本づくりだけをしてきた著者ではないからこそ言える、「単なる本づくりではなく、事業や活動を広げる目的をベースにした出版プロジェクト」についてお伝えします。
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読み手が本に求める三要素「ファン」「レファレンス」「レクチャー」
書籍企画(コンセプト)をユニークなものとするための切り口設定についてお伝えしましたが、いろいろと考えすぎて、読み手が全然いない企画になってしまうと本末転倒です。
したがって企画段階では、本当にこの企画を求めている読者は存在するのか、イメージしている読者はどういう人なのかを冷静に分析する必要があります。分析し、読者の存在をしっかりと考えながら企画を練るのです。そして読者により強く手を伸ばしてもらうための「アプローチ方法」を考えるのが次のステップです。
私は、「書籍に読み手が求めること(ニーズ)」を大きく次の3つに分けて考えています。
① ファン(楽しみ)
② レファレンス(参照)
③ レクチャー(講義)
一つ目のファン(fun)は、「読んで楽しみたい」というニーズです。実用書やビジネス書はあまり当てはまらないかもしれませんが、その本を読んでどうこうすることが目的ではなく、読むこと自体がfun(楽しみ)になることが求められている本はたくさんあります。
2つ目のレファレンス(参照)は、「体系立てられた情報を網羅的に得たい」というニーズです。一番分かりやすい例は辞書です。他にもマニュアル本など、特定のテーマに関する情報や手順が網羅的に詰まっていることが求められる本があります。この種の本は、頭から順番に追いかける読み方ではなく、知りたいところを検索して調べるような使い方が中心となるのではないでしょうか。
読み手が本に求める3つの要素
3つ目のレクチャー(講義)は、その本を読むことで「何かを得たり、何かができるようになったりしたい」「学びたい」というニーズです。特に実用書やビジネス書で強く求められることが多いのではないでしょうか。授業を受けるように、本の頭から順を追って読み、学ぶような読み方がイメージできます。
企画を考えるときには、今作ろうとしている本が、これらのどの読者ニーズに応える本なのかを、まず明確にしておく必要があるでしょう。
読者は「ずぼら」。効率よく簡単に何かを得たいと考える
3つのポイントの中でも、実用書やビジネス書の場合は、3つ目の「レクチャー」の要素が一番多く求められています。この本を読むことで、何か知見を得たい、何かができるようになりたい、すなわち「レクチャーしてもらいたい」という欲求があるからこそ、読者は実用書やビジネス書を買うのです。
さらに、これらの本を読みたいと思う読者の気持ちを想像すると、
①知るとすごく役に立つことを
②とても簡単(時間的に・難易度的に)にさっくりと手に入れられる
ことを本に求める人が多いのではないかと思います。
誤解を恐れずにいうと、読み手は「ずぼら」です。本を読むことで、「効率よく」何かを得たいのです。もちろん本を読むことにはそれなりの時間も労力も必要ですが、本を読まずに一人で実体験だけを通して学んでいてはなかなか到達できない何かを、読書によって手軽に学ぶことができます。ここでは、特に②の「とても簡単」が読者にとってより響くファクターとなります。ビジネス書を買う読者の多くは、早くラクして学んで、役立てたい、のです。
こうした読者の気持ちに分かりやすく応えるため、「1時間で分かる」「サルでも分かる」「一番簡単な」「簡単すぎる」、といったワードをタイトルに冠した本も多く出版されています。
「いかに分かりやすいか」を分かりやすく伝える
例えば、こんなタイトルの本があります。
『父が娘に語る 美しく、深く、壮大で、とんでもなくわかりやすい経済の話。』(ヤニス・バルファキス 著)
『東大の先生! 文系の私に超わかりやすく数学を教えてください!』(西成活裕 著)
この2冊は、2019年5月時点で、アマゾンの売れ筋ランキングで共に2桁以内に入っていますが、どちらも、「いかに分かりやすいか」ということをとてもよく伝えています。
もちろん、①の「すごく役に立つ」も大切です。お金と時間を投資して本を読むので、「これは使える!」「これお得!」と読者に感じてもらえないと、手に取ってさえもらえません。作り手や著者は書籍の内容を知っているため、「この本がどう役に立つのか」が簡単に伝わるように感じてしまいますが、たまたま本を見かけた読者(読者となり得る人)に、一瞬でそのメリットを想像させることは容易ではありません。ですから、書籍タイトルやデザイン、他の告知情報を一目見て、「あ、これ使えそう!」と感じさせる必要があるのです。情報を詰め込めばよいというものではありませんし、あまり抽象的に表現してもなかなか伝わりません。
このあたりの、本のテーマやコンセプトの訴求方法については、本連載の「タイトルの考え方」のパートで詳しくお伝えします。
とにかく企画を立てる場合は、読み手のニーズ(欲求)を念頭に置きながら
・その本が「どういう人の」「どういうことに」役立つのか
・それを、どういう切り口で整理すれば、分かりやすく簡単に伝わるのか
を考える必要があります。そして、「これは役に立ちますよ。しかも簡単にすぐに分かりますよ」ということをうまく伝えることが重要です。これは、本だけではなく、プレゼンテーションでも広告施策でもセミナー企画でも学校の授業でも同様かと思います。役に立たないと思って学校に通う人はいませんし、同じことが身につくのであれば、「10年修行してください」よりは、「週末だけでOK」「半年で卒業できますよ」に惹かれる人が大半です。
この考え方は決して読者を軽んじているわけではありません。いかに「分かりやすく伝えるか」をしっかり考えて、できる限り伝える努力をすることが、情報を発信する側には求められている、ということをここではお伝えしたいと思います。
「ユニーク性」と「分かりやすくお得」のバランスを熟考する
もちろん、一つの本の中に、ファン、レファレンス、レクチャーの3つの要素が混ざっていることも多いかと思います。
例えば、「聴くだけで英単語を覚えられる本」が、求めるレベルで必要な単語が網羅されていて(レファレンス)、ラクに学べて(レクチャー)、しかも読んでいて楽しい(ファン)だと最高ですよね。
ただ、やはり読者は、その本を読むことで得られる投資対効果を考えて、お得だと感じられることにこそお金を出すのだと思いますので、このような本の場合は特に「レクチャー」の要素が重要となります。
最後にまとめましょう。
これまでお伝えしてきた順番と同様に、私が出版企画を考えるときは、
①「誰に何のために伝えたいのか」を考える
②「それはユニークなものか?」を考える
で企画テーマを絞り込んだうえで、
③「いかに分かりやすくてお得なものであるか、をどう読者に伝えるか」を考える
という順番とすることがよくあります。
最後の「分かりやすく」が抜けていると、驚くほどユニークで面白い企画の本なのに、なぜか読まれない(買ってもらえない)というケースが多く、もったいない結果となってしまいます。
また、②と③の2つのポイントのバランスがどうやったら取れるか、を何度も考えるようにしています。2つのポイントの片方がずば抜けていてもうまくいかないことが多く、「両者のバランスが取れている企画」であることが理想です。
今回は本づくりの3つ目のポイント「読み手の『ニーズ(欲求)』を考える」についてお伝えしました。次回は、本づくりの進め方についてご説明しますが、なんといっても「企画」が最も重要です。
広報・PRとして出版を検討する際には、本の制作自体は、プロに発注することも多いと思いますが、企画だけは丸投げすることはまったくお勧めできません。ここの方向性を誤ると、完成度の高い本ができたとしても、望んでいた情報発信やコミュニケーションを実現することはできなくなります。
まずは、社内やプロジェクトメンバーとしっかり話して、「そもそも、その企画は出版を通して実現させるべきか(他の方法ではダメなのか)」「出版する場合には、誰に対して何を伝えたいのか」を詰めた企画を作ることを最優先としていただくのがよいかと思います。
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