本の「コンセプト」を明確にする【広報・PRのための、シンプルな本と企画のつくり方】第3回
2020-08-27
2段階で企画(本のコンセプト)を考える
広報・PRのための、シンプルな本と企画のつくり方
この連載では、good.book(グーテンブック)という出版サービスでこれまで100冊ほどの書籍企画・編集・発行を手掛けてきた著者が、お手伝いさせていただいた企画やプロジェクトの経験から「シンプルな本づくりのポイント」を解説します。本づくりだけをしてきた著者ではないからこそ言える、「単なる本づくりではなく、事業や活動を広げる目的をベースにした出版プロジェクト」についてお伝えします。
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この企画の何が面白く、ユニークなのか?
出版の目的を明確にしたら、次に考えるべきことは「本のコンセプト」です。コンセプトは「テーマ」という言葉に置き換えてもいいですが、要するに、その本独自の(ユニークな)「企画の切り口」です。
①「その企画(著者の話すこと・書きたいこと)の何が面白いの?」
②「似たテーマのコンテンツって他にもあるの?」
私が企画を考えるときには、まずこういったクエスチョンを頭の中で問いかけています。まず、その企画自体に個人として興味を持てるかどうか。やはり最初はこのシンプルな問いかけから始めます。出版社としては、つい「こういう本をつくったら売れそうだな」という発想で考えたくなってしまうのですが、「面白そうかどうか」は本づくりを始めるうえで一番大切です。面白くない企画(あるいは面白さが人に伝えられない企画)では、作り手の本づくりにかけるモチベーションを維持することも難しくなってしまいます。
企画内容を第三者に話して反応を見る「壁打ち」をしよう
別の人が考えた企画については、第三者として客観的に評価することもできるかもしれませんが、前述したように、自分自身で考えた企画は、ついつい面白く感じすぎてしまいがちです。そうならないためには、やはり人に話して反応を見る(感想を聞く)のが一番です。周囲の人や、企業のプロジェクトであればチームメンバーに、企画内容を話してみましょう。
かっちり企画書に作りこまれていない状態でよいので、「〇〇〇というテーマで、△△△ということを発信したい。なぜ、それを自分たちが語れるのかというと……」と考えていることを話してみてください。そして、企画を完成させる前の「壁打ち」として、率直な意見をもらうようにしてください。
ここで話す際には、きれいな企画書にはまとめて見せない方がよいでしょう。企画書があまり仕上がりすぎていると、その完成度に企画の中身自体がごまかされてしまうことがあるからです。
また、よい企画ほど「シンプル」であるようにも思います。口頭で1、2分でまとめて話せるようになっているほど、頭の中で整理された企画でもあります。簡単に人に話して伝えることができない企画は、まだ自身の中でも推敲の余地があるといえるでしょう。まずは、人に話してみて、お勧めのポイントを端的かつ明確に伝えることができるようになるまで、考えることと話すことを繰り返しましょう。
ただしここでは、誰もが「いいね!」といってくれる必要はありません。読んでほしい「想定読者」が面白がってくれればよいからです。とにかく、できるだけ多くの人から企画についてのフィードバックをもらいましょう。その過程で、企画の内容について変えたい点が出てくるかもしれません。そうやってどんどんよい企画へと練り上げていくのです。
頭の中で想定読者にプレゼンしてみる
「人に話してみる」以外の方法で、私が企画の推敲としてやっていることは「自分の頭の中に想定読者像を作り上げて、企画の内容を話してみる」ということです。マーケティングの世界で「ペルソナ」と呼ばれるものと同じ考え方です。
まず、今回の企画の目的とコンセプトから、最も読んでもらいたい人のイメージを描きます。男性なのか、女性なのか。どういう仕事をしている人で、どの程度の知識を持っていて、どういうことに興味を持って、何に困っているのか。想像の中で、読者の具体的イメージを考えます。大きく2つの読者層が想定される場合(例えば、教育の本を作っていて、先生と親御さんに伝えたい場合など)は、2人に分けて想像します。
この時点で、想定読者のイメージを具体的に描けない場合は、まずそこを精査する必要があると思います。「誰に伝えるのか」が抜けていては、なかなかまともな企画は作りづらいのではないでしょうか。
想定読者のイメージが頭の中で描けたら、彼らに今回の企画内容について話してみましょう。そのとき、お勧めのポイントが明確で、想定読者も「そりゃいいや! 買うわ!」といってくれたら、それはいい企画かもしれません。しかし相手が「うーん……」と黙ってしまったら、おそらく作っている途中に著者自身が迷うことも多くなるでしょうし、完成した書籍が想定読者に受け入れられることも難しい可能性が高いと思います。
企画の評価は厳しく。企画を寝かして再考するのも有効
作り手側に立つと、多くの企画が「めちゃめちゃ面白く」感じられるようになります。しかしながら、実際に読んでほしい人に面白さが伝わり、受け入れられる本は必ずしも多くありませんので、ここの面白さの評価は少し厳しめに考えた方がよいと思います。
また、ここでご説明した企画の壁打ちとして、編集者に相談することも有効です。編集者はいつも自身で企画を考え、人の企画についてもよく見ています。率直に話すことができる編集者とつながりがあれば、ぜひ意見を求めてください。ただし、編集者のフィードバックが必ずしも正しいというものではありません。多くの意見を聞いて、企画をブラッシュアップしていくのがよいでしょう。
また、これは昔からいわれることですが、企画を寝かして、後日客観的に見直すことも効果的です。そのために、後から見直せるように企画内容を「目に見える文章」に書き出すことが必要です。頭の中にしかない企画はわりと穴だらけで、実は具体的な内容が詰まっていないことが多いので、「企画は書き出す」ことをぜひ勧めします。書き出し方は、紙でもデジタルデータでも、きれいな企画書やスライドにまとまっていなくてもよく、箇条書きのテキストでも十分だと思います。
企画のライバルがあるかを調べ、その分野でチャレンジするか否かを決める
うん、この企画やっぱり面白い! ということであれば、②のクエスチョン「似たテーマのコンテンツって他にもあるの?」について調べてみましょう。今考えている企画が他にあまりないユニークなものかどうか、を確認するのです。
ここでいう「コンテンツ」には、書籍だけでなく雑誌・Web記事・動画、など様々な形式が含まれます。グーグルやアマゾン内の検索を使って、企画の切り口となるキーワード(複数想定されると思います)を検索してみましょう。
もちろん、同様の企画がすでに世の中にあるからといってダメというわけではありません。例えば、「Webコンテンツとしては多く見られるが、体系立てられた書籍がまだ出ていないテーマで出版する」といった企画は十分に成立するでしょう。
世の中に新しい情報やトレンドが広がる順番(流れ)としては、「Webメディア」が最も早く、次に「雑誌媒体」、そして最後に「書籍」という傾向にあるので、まだ書籍までトレンドの波が来ていない、半歩進んだ企画を拾い上げてカタチにすることは実現可能です。
Webメディアよりいち早くトレンドをつかむ場所に「コミュニティ(小規模イベントやサロン、勉強会)」があるようにも感じます。ですが、あまり先進的なテーマを書籍化しても、広がらない可能性が高いのではないか、と私は思います。コミュニティは深く掘りこんだ情報をやり取りするのには向いていますが、そこで話題になっていること(コンテンツ)の多くは、そもそも世の中に広げる必要がないものなのでは、と感じるからです。
トレンドが広がる流れ
ただし、「すでに同様の企画(テーマ)の書籍が山ほど出版されているが、あえて出す」、しかも「できるだけたくさん売りたい」といった企画は、なかなかハードな勝負を挑むことになります。
もちろん、類書が多く出ているということは、ある程度の読者層が存在する「固い企画」ともいえるのですが、出版としてはいわゆるレッドオーシャンで勝負することになるので、その競争に勝てる根拠が必要となります。
逆にいうと、一定の読者が存在すると想定できるのに類書が出版されていない企画は、〝ダイヤモンドの原石〟といえるでしょう。半歩先に進んだ、かつ面白い(ユニークな)テーマということになりますが、こういった企画をいち早く書籍化することは、出版社としても、そこにビジネスとしての大きな可能性があり、チャレンジする意義があると感じます。もちろん読みが外れて、まったく売れない企画となることもありますが、より読者に求められる可能性がある企画だと思います。
100匹目のどじょうは無理だが、2匹目・3匹目はアリ
では「類書はあるが、あふれかえるほど出ているわけではない」という場合はどうしたらいいのでしょうか? ライバルがそこまで多くないのであれば、オンリーワンの企画とはなりませんが、2匹目・3匹目のどじょうを狙うという選択肢もアリだと思います。読者によって書籍の探し方も違いますし、すでに出ている類書がすべての読者をカバーできているわけではありません。
また企画がかぶっていても、結局書く人や編集者によって本の内容は異なるものに仕上がりますので、弊社でもこの選択肢を取ることは多数あります。ただし、100匹目のどじょうを狙うとなると少々難しく、その本を読者が選ぶ理由がないとなかなか販売面でも難しいかと思います。
もちろん、「これまでの類書にはない超ハイクオリティな企画で、中身が全然違うのだ!」と主張できる場合もあるかと思いますが、本を探している読者は、そこまで細かく中身を吟味することはできません。
弊社では難しいですが、「圧倒的な販売力を持っている出版社やメジャー流通企業から販売することで、販売物量で勝つ」といった方法もあるかもしれません。もちろん、なぜその出版社がその企画を選択するのか、の理由は必要ですが。
「テーマの掛け算」で、新規性を持ったユニークなコンセプトに
「想定読者が一定数いるはずだ。ただし、類書はそこそこある」、こういった場合に弊社が取ることが多い手法は「テーマの掛け算」です。考えているメインテーマだけでは他の類書との差別化ができないけれど、もう一つ別の「サブテーマ」を掛け合わせることで、他にはない新しい企画(コンセプト)にアレンジすることができるのです。
例えば、「会計の入門書」というテーマで本づくりを考えているとします。山ほどの類書がすでに販売されていますが、売れているものも売れていないものもあります。今から「会計の入門書」を作ろうとすると、何か大きな特徴がないと読者に選んでもらうことはできません。そこで、もう一つの切り口(サブテーマ)を掛け合わせてみるのです。
次の例を見てください。売れるかどうかは確約できませんが、ちょっとユニークなものに感じられてはこないでしょうか。
テーマの掛け算(1) 「会計の入門書」×「特定業界(読者属性)」
「保険営業マンのための会計入門」
「起業した1年以内で使うものだけの会計入門」
「運輸業界で働く担当者のための会計入門」
会計の入門書というメインテーマはそのままに、業界や読者の属性を絞り込むサブテーマを掛け合わせることで、サブテーマに該当する読者にとって「より自分に最適なテーマ設定の書籍」として感じてもらいやすくなります。
著者自身に強い訴求力がある場合は、次のようなテーマの絞り方も可能です。
テーマの掛け算(2) 「会計の入門書」×「著者自身の特徴」
「税務調査を20年担当した調査官による、いざというとき慌てない会計入門」
「(著名人)が失敗して覚えた、これだけは知っておきたい会計入門」
この場合の企画(切り口)のポイントは「著者の特徴(独自性)って何?」「なぜ、他の誰かではなく、この著者が話すことに意味があるの?」という点です。とはいえ、そこまで訴求力がある著者は少ないため、このパターンの企画はなかなか難しいように思います。
さらに、次のように「時間軸」を企画の特徴として掛け算することもできます。
テーマの掛け算(3) 「会計の入門書」×「時間軸」
例えば「2020年法制に完全対応した会計入門」などがこれにあたります。
最も分かりやすい例は、資格の検定試験の予想問題集でしょう。同じ検定に対して、複数の出版社から同じような問題集が発売されていますが、やはり「2020年試験 最速対応」といった、書籍内容の「鮮度」は、この種の本選びにおいては重要なポイントです。
同様に、ITツールのマニュアル本なども「いかに最新の情報を取り込んでいるか」がポイントとなることもあります。もちろん、新しければよいというものではなく、内容が一定以上のレベルにあることが前提となります。
ただし、ユニークであることを求めすぎて、あまりに掛け算しすぎると想定読者が狭くなりすぎるので注意しましょう。例えば、「NPOで、海外取引をやりたい人のための、会計処理入門」といった企画を考えたとします。ここでは「会計入門」×「NPO」×「海外取引」と3つの要素が掛けられていますが、この企画がドンピシャにはまる読者はあまりに少ないだろう、と想像できます。また掛け算ですので、どれか一つでもニッチすぎるテーマ設定が入っていると、コンセプト全体が一気に縮小してしまいます。もちろん、企画の目的として、伝えたい相手がその超ニッチにあたるのであれば、絞り込むことにはまったく問題ありませんが。
ここでは、
・まずは、想定読者に「面白いと思ってもらえるメインテーマ」を吟味する
・著者自身が持っている引き出しから、「企画に独自性を与える切り口は何か」を考える
の2段階で企画(本のコンセプト)を考えることをご紹介しました。
せっかく作る本はしっかり読んでもらいたいもの。まずは、自身が考えている企画の想定読者に手に取ってもらえるように、「その本が選ばれる理由」を考えることが重要です。様々な企画の作り方があると思いますので、「本づくりをやってみたい方」にとって、方法の一つとして参考としていただけたら幸いです。
次回は3つ目のポイント「読み手の『ニーズ(欲求)』を考える」についてお伝えします。
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